骨折した息子は、母校へ入院した。

手術の説明を受けるために、僕ら夫婦は都心まで出掛けた。

六本木、虎ノ門、その辺りから徒歩でテクテク・・・。

 

都心も都心、都心の中心部だ。

景色も人も車も郊外とは全く違う趣きだ。

この国の現在の歪なカタチと状況を、僅か一時間の電車移動で僕は実感した。

 

スーツ、スーツ、またスーツ。

吊るしじゃなくてな、一目で仕立てだと分かるようなスーツのオジサンが多い。

ベンツ、ベンツ、またベンツ。

郊外で見掛けるようなベンツじゃなくてな、バリッとした大きなベンツばかりだ。

この国は未だ、豊かなのか?

って、思わず錯覚してしまう。

 

「 ほら、胸を張って堂々と。 」と、カミさんが僕の背中を軽く叩く。

そうだったそうだった僕は、福山クラスのオジサンなんだよね、

そうだよねそうだよね、君が言うのだから間違いじゃないよね?

って、想いを込めてカミさんの目を見るとニコッと笑ってくれるので可愛い。

じゃ、と僕は、オードリー春日的な歩き方を開始した。

 

オードリー春日的な歩き方をしていると、みんなが道を譲ってくれる。

高級なスーツを纏っていても、並みのオジサンたちは小っさいものだな。

申し訳なさ半分、心地よさ半分、何とも不思議な感覚だ・・・。

もしかするとベンツで街を走るのは、こんな感覚なのかもしれないなと思った・・・。

 

オードリー春日的な歩き方をしていて、だな、

もしも反社勢力っぽい人と肩がドンッてぶつかっちゃって、

「 なんだコラァ! 」とか言われたら困っちゃうので、ね、

今まで僕は道の端っこを歩くようにしていたのだけれど、

福山レベルだというカミさんの言葉を信じてこれからは真ん中を歩くことに決めた。

 

・・・・・ ・・・・・ ・・・・・ ・・・・・

 

それにしても都心部にいると、大切な事が見えづらくなるのは確かだ。

 

せめて肩で風を切って歩きメデス・ベンツ・・・。

 

福山レベルの五十路オジサンは、歩きメデス・ベンツの中のSクラス・・・。

 

なんだもんね~だ。