少年の地図
「お父さん・・・、オレ、尾崎豊を聴いてみたいんだけれど、うちに尾崎のCDってある?」
2階の押入れの中の段ボール箱を探せばあるよ。
でもね、CDじゃないんだよ、レコードなんだ・・・。
レコードプレーヤーが無いから聴けない・・・。
父さんが買ったのはね、高校生の時だった。
CDじゃなくってさ、時代はまだまだレコードの頃だったんだ・・・。
「先輩に教えてもらったんだ・・・。尾崎豊はすごくいいんだって・・・。」
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カセットテープに録音してあった物なら見つけられた・・・。
おおっ、これはな、母さんが10代の頃に聴いていたテープだぞ・・・。
少し色褪せたインデックスに書かれている文字は、若い頃のカミさんの字だ・・・。
現在の字とはね、微妙にちょびっと違う。
懐かしいなぁ・・・。
この文字で書かれている手紙をもらう度にさ、とてもうれしかったのさ・・・。
現代の子たちは、さ、メールなんだろ?
誰が書いたって同じ文字だろ?
ちょびっと味気ないかもな・・・。
カセットテープは伸びてしまっていて、とても聴けるような状態ではなかった・・・。
僕らが尾崎豊を聴いていた時代は、遥か昔になってしまったんだ・・・。
伸びきった音のピアノのイントロが流れる・・・。
ハヤトよう、この唄が「シェリー」だ・・・。
真っ直ぐに自分らしく生きればいいんだぜ・・・。
そうすればな、必ずハヤトだって「シェリー」に出会えるさ・・・。
今はメチャクチャ恐いんだけれどな、
19歳の頃の母さんはさ、19歳の父さんの「シェリー」だったんだ・・・。
すごくいい歌詞だろ?
そうだよな、「シェリー」だって40歳になればよ、現在の母さんみたいになっているだろう・・・。
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41歳になった僕がいる。
尾崎豊が生きていればなぁってね、一体何度考えただろう・・・。
生きていれば42歳になっていた尾崎豊は、どんな地図を僕たちに教えてくれただろう・・・。
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尾崎豊は、僅か26年で今生の命を閉じた。
だが、尾崎豊の唄を素晴らしいと思う現代の中学生だっている。
尾崎豊の唄を聴いてみたいと思う中学生だっている。
彼らは汗だくになりグラウンドを走っている野球少年たちだ・・・。
汚れなき魂たちは共鳴する・・・。
あまりにも悲しく美しく響きあう・・・。
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中古CD店で、何枚かの尾崎豊のCDを買った・・・。
眠っているハヤトの枕元に置いた・・・。
君は何を思う?
君は何を考える?
それがとても楽しみだ・・・。