広陵高校、野村投手に捧ぐ
あの日から少しだけ時間が流れて、君は少しだけ未来に生きている。
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あの日の君は、スタートラインに立つマラソンランナーのように見えたよ。
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より高き舞台へ・・・。
より誇り高き舞台へと進むマラソンがスタートした・・・。
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大歓声を背にしながら本塁打を放ち、
右手を高く掲げてダイヤモンドを走る打者には一瞥もくれず、
君は真っ直ぐにマウンドに立ち、真夏の空を見上げた・・・。
君は真っ直ぐにマウンドに立ち、静かに微笑んでいた・・・。
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あの日から少しだけ時間が流れて、今は、あの日よりも未来だ・・・。
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どうだい?涙は乾いたかい?
汗は引いたかい?
今よりも遥か遠い未来に向けて、
君は走り始めたところ・・・。
苦しい時に、悲しい時に、くじけそうになった時に思い出せばいい。
あの日の涙と汗を思い出せばいい。
少しだけ時間が流れただけの未来の今なのだけれど・・・、
あの日の君より今の君は強くなっている。
明日の君は、今の君よりもっと強くなっているだろう。
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その夜、君は眠れなかっただろう・・・。
きっと涙が溢れ続けて眠れなかっただろう・・・。
泣いてもいいんだよ。泣いてもいいんだよ。
だって君はエースなんだからさ。
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小さな頃から野球が大好きだったんだものね。
夢中になってボールを追いかけていたんだものね。
君のユニフォームの右膝の土は、甲子園の土。
甲子園のマウンドの土。
その土はね、君の勲章だ・・・。
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いつか、君の夢の中に現れるだろうな、
ちっちゃな頃の、そう、生まれて初めて野球のユニフォームを着た頃の君自身が、ね。
ちっちゃな君は、今の君に尋ねるだろう・・・。
「オ兄チャン・・・、僕ハ野球ヲ続ケテイマスカ?」
君はね、ちっちゃな君の頭を撫でて言っておやり・・・。
「ああ、がんばっているよ。」ってね。
な、君は昔の君に誇る事の出来る君なんだぜ。
素晴らしいじゃないか・・・。
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野球の神様は意地悪じゃない・・・。
それは、君が一番理解しているはずだ・・・。
もっともっと高いステージへ・・・。
もっともっとすごいマウンドへ・・・。
君を導いてくれる・・・。
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優勝旗の重さよりもね、
ずっと大切な何かがある・・・。
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信じていておくれ。
この夏のエースよ・・・。