五十一の僕から十五の僕へ

弱いぞ、あのな、僕は筋金入りの弱さだぞ・・・。


十五歳の僕から僕の心の中に手紙が届き、
五十一歳の僕は早速返事を書いた・・・。
なんだかな、あの歌の現実版みたいだけれど、
幼い自分からの手紙って、本当にある日突然こうして届くものなのだね・・・。


十五歳の自分に宛てた返事の手紙に、こう僕は書いたのだ・・・。


弱いぞ、あのな、僕は今でも筋金入りの弱さだぞ、って・・・。


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中学三年生の時の、ちょうど夏休みが終わった頃の事だ。
前にも一度僕は、Hくんのノートの話をここに書いたっけか?
まあいいや、もう一度書こう・・・。


夏休みが終わった頃、
B級男子だった仲間のうち何人かが急に不良イグレシアスになったんだよ。
迫る受験のストレスなのか、終わった部活からの解放感なのか、
その理由は分からないし、知りたくもないけれど、
ヤツらは急に不良になった・・・。


急に不良になったヤツらは、マジメなHくんをイジメの対象にしたのであった。
ヤメなよって、同じB級男子の仲間じゃないか、つまらない事はヤメようよって僕は言い続けたのだが、
ヤツらのHくんに対するイジメは収まらなかった・・・。


ある日、ヤツらは、
ビッシリと書き込まれたHくんの数学のノートをHくんから取り上げた。


取り返してくるから待っててと僕は言い、
ヤツらの所へ向かったのだった・・・。
恰好イイと思うかい?
だがな、僕は恰好悪かったのだよ、
5人から袋叩きにされてしまったのさ、瞬殺だ。
殴られて蹴られて、ノシイカのようにビロ〜ンとのびて、のび太くんになった・・・。


ビロ〜ンとのび太になった僕は倒れたまま、
殴られたり蹴られたりした痛みと、殴った自分の手の痛みを感じていた・・・。
痛いなあ、痛いなあって。
でもね、一番痛かったのは 心 だったな・・・。
痛いのは本当に嫌な事だなと思った・・・。


Hくんの数学のノートは破られ、踏まれ、ボロボロになってしまった。


ボロボロになってしまったノートをHくんに渡すと、
Hくんはポロポロと泣きながら僕に、ありがとうありがとうと何度も言った。
僕が余計な事をしなければだな、Hくんのノートはボロボロにならないで済んだんじゃないかと思い、
涙は出なかったけれど、心の中で僕は泣いた・・・。


僕は弱い。
トモダチの大切なノート一冊を守る事すら出来ない弱さだ。


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十五歳の自分へ宛てて書く手紙の内容にしては恥ずかしい限りだが、
時空を超えてこの想いを共有出来るのは少年だった頃の僕だけだ・・・。


ただ、この手紙の最後にこう書き加える事が今なら出来るんだ。


十五の僕よ、
イジメる側の人間にならなくて本当に良かったよ、
君は筋金入りの弱い男なのだけれど、
誰にも負けたくないって踏ん張れるだけの男にやがてなれるんだよ、って・・・。


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わっはっは、後日談がある。
僕らが二十歳になった頃、
大学生だったHくんはだな、
レンタルビデオ屋さんのバイト店長に出世して、なあ、
たくさんのエッチビデオを無償で僕に貸してくれる偉い人になりました。
風呂の無い部屋に住んでいた僕だが、ビデオデッキ(VHS)は持っており、
随分と救われたものだ・・・。


「 オマエからはお金は貰えねえ。 」って。


持つべきものはトモダチだ。
Hくんが貸してくれるビデオは、新作ばかりであった・・・。


トモダチは大切にするべきだと僕は思うぞ・・・。